日本産タナゴ類の中で、唯一「タナゴ」という和名を持つ本種。現代ではタイリクバラタナゴ(外来種)が「タナゴ」として一般に認識されがちですが、古来より東日本の水辺に息づくこの『タナゴ(Acheilognathus melanogaster)』こそが、真の『タナゴ』であると考えています。
釣れた直後は紫色にも見える婚姻色がとても綺麗なタナゴです。
1. 基本情報
本種は、標準和名は「タナゴ」ですが、愛好家の間では他種と区別するために「マタナゴ」とも呼ばれ、親しまれています。東日本を代表する在来タナゴの一つです。
タナゴ(マタナゴ)は、日本産タナゴ類の中でも特に関東地方や東北地方に馴染み深い在来種です。
- 学名Acheilognathus melanogaster (Bleeker, 1860)
- 分類:コイ科 タナゴ属
- 環境省レッドリスト:絶滅危惧IB類 (EN)
- ヤリタナゴ(準絶滅危惧)と比較しても、より深刻な絶滅の危機に瀕しています。
2. 形態とサイズ
ヤリタナゴと混同されることもありますが、以下の微細な特徴で識別が可能です。
- 体型: 日本のタナゴ類で最も体高が低く、スマートな紡錘形。ヤリタナゴよりもさらに「細長い」印象を与えます。
- 標準体長:全長90mm程度
口ひげ:非常に短い、あるいは肉眼では確認できないほど痕跡的です。
※ヤリタナゴは「日本産タナゴ類で最も長い口ひげ」を持つため、ここで明確に判別できます。 - 鰭の軟条数:背鰭(分枝軟条):7〜8本
臀鰭(分枝軟条):7〜9本 - 側線: 側線が体の途中で途切れる不完全側線です。

※画像の個体は栃木県産
3. 生息環境と分布
- 生息場所: 平野部の小川や農業用水路、湧水の影響を受ける澄んだ水域を好みます。
- 微細生息域: 砂礫底や泥底があり、適度な水流がある場所を好みます。
- 分布の特性: 関東地方および東北地方の太平洋側に分布する日本固有種です。
以前は多くの個体が生息していた霞ケ浦では出会う機会はほぼなくなっています。
4. 繁殖生態
- 時期: 春から初夏にかけて繁殖期を迎えます。
- 婚姻色: 婚姻色:本種の婚姻色の本質は、その「黒」の表現にあります。オスは体側全体が青黒く染まり、時には高貴な紫色さえ帯びます。この特徴は学名にも色濃く反映されており、『melanogaster』という名は、その「腹部が黒くなる(melano-gaster)」という身体的特徴に直接由来しています。この「黒」は鰭にも及び、背鰭、尻鰭、尾鰭が黒化する点は、他種との決定的な識別点(同定ポイント)となります。しかし、単なる黒一色ではなく、尻鰭の外縁にはシロヒレタビラのように鮮烈な白色の縁取りが現れ、その「黒と白」の対比が、本種の美しさを究極のものにしています。
- 産卵母貝: ドブガイなど
- 産卵管:長い
5. 飼育管理の要点
- 水質: 中性付近の安定した水質を好みます。
- 性格: ヤリタナゴに比べるとやや繊細な面があるため、落ち着いた環境での飼育が推奨されます。
- 注意: 国内希少野生動植物種に指定されている地域もあり、採集や飼育にあたっては各自治体の条例等を必ず確認してください。
参考文献・引用: 北村淳一・内山りゅう(2020)『日本のタナゴ 生態・保全・文化と図鑑』山と溪谷社
